古作祐真(起業家・公認会計士|19期生)
取材・文/木崎ミドリ
写真/林 直幸
■古作祐真さんの軌跡
2015年 | 大学3年生の時に公認会計士試験に合格 |
2017年 | 慶應義塾大学経済学部を卒業 |
2017年 | あずさ監査法人へ入社 |
2022年 | あずさ監査法人を退職し、世界一周の旅へ |
2024年 | 独立・起業に向けて準備中 |
■歴代きっての真面目な代だった19期生
僕たち19期生は、先生方にも「歴代きっての真面目な代」と言われるほど、勉強に打ち込む人が多い代でした。高校3年生の時にⅠ類(文系)とⅡ類(理系)に分かれると思うのですが、240名いた僕たちの代はⅡ類を選択する人が90名ほど。医学部志望者も多く、15名ほどいたのではないかと記憶しています。そんな秀才だらけの同期に圧倒されながら3年間を過ごしました。
大学では経済学部へ進学し、公認会計士を目指したのですが、まさか同じく会計士を志望する同級生が10名もいるとは思っていませんでした。会計士は、合格するまでに3000~4000時間の勉強を要すると言われています。周りがサークル活動などで楽しんでいる中、自分は1日10時間勉強をしなくてはいけない。そんな過酷な状況を乗り切ることができたのは間違いなく、共に勉強するSFCの仲間たちがいたからだと思います。10名全員、大学在学中に公認会計士試験に合格することができました。
■監査法人へ入り、5年半がむしゃらに働いた
大学卒業後は監査法人へ入り、公認会計士として会計監査に従事していました。医師が人体のプロ、弁護士が法律のプロであるのと同様に、会計士は会社のプロ。会計監査という独占業務を国から与えられた資格が公認会計士です。
会計監査とは、会社の成績表をチェックする仕事です。例えば、学校では生徒の成績表は先生がつけますが、会社の成績表は会社が自分で作るんです。その成績表を元に、投資家や銀行がお金を出しますが、成績表が正しいかどうかのお墨付きが無いと安心して出資することができません。その適切性をチェックするのが監査業務になります。
会計士になって良かったのは、若いうちから本当にさまざまな業種・業界の会社のビジネスや構造、どんな意思決定をしているのかを知ることができた点です。
会計士として監査を担うからには、社会人1年目であろうと、上場企業の経理部長と数字のプロとして質問をぶつけていかなくてはいけません。事業計画や取締役会議事録等の資料を見ながら、数字や会計処理が正しいかを見ていく。その過程で、会社の仕組みや内部統制などにも、詳しくなれる。周りももちろん全員難関資格を通ってきた会計士ですので、優秀な方が多くとても刺激になりました。もう、振り落とされないように必死にしがみついていく。そんな日々でした。
■監査法人を辞め、世界一周バックパッカーの旅へ。
会計士として必死に過ごした5年半を経て、満を持して監査法人を辞め、世界一周の旅へ出ることにしました。そのきっかけは、社会人2年目の時に読んだスティーブン・R・コヴィー著の『7つの習慣』という本でした。第2の習慣に、「終わりを思い描くことから始める」という章があります。
「これは、今日から三年後に行われるあなたの葬儀だ。(中略)四人が弔辞を述べるようだ。最初は親族を代表して、各地から集まってきた子ども、兄弟姉妹、姪、おば、おじ、いとこ、祖父母から一人。二人目は友人の一人で、あなたの人柄をよく知っている人。三人目は仕事関係の人。最後は、あなたが奉仕活動を行ってきた教会や自治会などの組織から一人。」
そのような場面を心の中に思い描き、それぞれにどのように言われたいかをイメージする。そこから自分の価値観を明確化して、それを自分の人生の行動指針とすべきだというようなことが書いてありました。
それを読んだときに、僕が弔辞で言われるとしたら「あいつって、いつ見ても面白そうなやつだったよ」と、そう言われたらいいなと思いました。そして死ぬ間際に、チャレンジしないで後悔するということだけはしたくないと強く思いました。20代、30代の時にあれをすればよかった、そんな風には思いたくない。その中のひとつに、世界一周という夢がありました。
たとえ、1~2年キャリアを犠牲にしたとしても、100歳で死ぬときの自分から見れば、きっと誤差だ。絶対に行った方がいい。今はまだ家庭も持っていないし、会計士なら仮に10年間ブランクがあったとしてもきっと仕事はある。これはもうリスクは無いと思い、2つ年下の会計士の後輩と共に、監査法人を辞める決断をしました。そして、28歳で世界一周バックパッカーの旅へ。1年ほどで63ヵ国を巡りました。
■閉塞感を失くしたい、日本人自身が誇れる日本に
アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、南米・中米・北米と、63ヵ国を巡り感じたのは、外国の方々が日本に対して抱いてくれているリスペクトの気持ちです。
旅をする中で、現地の方と話しをする機会も多いのですが、その時に必ず聞かれるのが出身地。日本人だと伝えると、喜ばれることがほとんどでした。「日本人か! 僕はあのマンガが好きだよ」「アニメを見ているよ」「僕はトヨタに乗っているんだ。30万キロも車を走らせているけれど全然壊れないんだよね」と、日本の文化や技術をとても褒めてくれます。
一方で、日本に帰ってきて感じるのは「日本、オワコンだよね」というような、日本に対する停滞感や閉塞感みたいなものでした。人口減少や、少子高齢化などの多くの課題と向き合う必要がある、と。
日本の人たちが、自分たちで日本はネガティブな評価をしてしまっている。でも、それっておかしいんじゃないかと思ったんです。世界から見れば、日本人ってすごく好かれているし、リスペクトされているのに、その国の人たちが自分たちでそんな風に思っていてはだめだろう、と。
世界一周を終え、僕はそういった日本の中の閉塞感を少しでも失くしたいと思いました。自分に何ができるだろうかと考えた時に、やはり日本のGDPを上げていくということが一つの指標としてあると思いました。
そして今、日本のGDPを押し上げている業界の一つに観光業界があります。これから2030年に向けて、訪日外国人旅行者数を6000万人に増やしていこうという国の方針もありますし、岸田政権はスタートアップ支援にも力を入れ始めました。もう、この流れに乗るしかない。そして何と言っても自分は旅や観光が好きだ。そう思い、会社を興すことを決意しました。
■インバウンドに向けたサービスを提供できる会社を
世界一周の経験、そして公認会計士として会社に向き合ってきた経験を活かし、現在インバウンド、特に外国人を対象にしたサービスでの起業準備中です。僕は高校からSFCに進学したのですが、幼少期はアメリカとシンガポールで暮らしていました。日本に住むのはSFCに通い出してからが、ほぼ初めてでした。
部活選びで弓道部を見学に行った際にも「うわ! 袴履いて弓を持っていて、日本かっこいい!」と感動し、入部を決めてしまうほど。僕自身、日本のカルチャーに対して強いリスペクトを抱いていますし、日本人としての誇りを持っていたい。世界を見て周って、改めて日本のよさも実感しましたし、立ち上げたばかりの会社を通じて、会計士という武器も上手に使って、日本のGDPを上げていくための活動を行っていきたいと考えています。
■在校生へのメッセージ